外形切れたのでヤスリで整形。
この手のモデルだとコバの直角はリカッソの下側とヒルトの付く部分が出ていればいいけど、加工のしやすさを考えると全体の直角が出てた方がいい。
ヤスリで削るだけだと今一精度出ないし面倒なので、ボール盤を利用する。
穴あける。
とりあえずほとんど平みたいだ。
ボルト穴は微妙に上寄りにあけた。
ラブレスのモデルはファスナーボルトの位置はハンドルの中央でなくて、微妙に上寄りなんだそうだ。
ハンドル材が付くと目の錯覚で、ボルトが下目に付いてる様に見えるそうだ。面白い事に確かにそうなんだよな・・・
最近までそんな事も知らなくて、ショーで吉川さんに教えてもらったのだったw(吉川さん、ありがとです~)
おそらく今マトリックスアイダで売ってるスーパーゴールドⅡは、熱処理で曲がる事はないと思われる。
だけど以前曲がった事があったので、おまじないだと思って焼鈍しておく。
冷却は空冷でもいいけど、今回は念のため灰の中で冷却する。
応力除去焼鈍しだし、ナイフの様な薄物ならば空冷で十分かもしれない。
自分の考えをまとめるつもりで書いておく。
興味のある人だけ読んでくだされ。
熱処理で曲がる事がたまにある。
多かれ少なかれ、熱処理での歪みは発生するものだ。テーパータングの平面度を見ていると分かりやすい。大体が無視できるか修正できる程度で収まる。
それでも今まで70本近く作ってきたが、決定的に曲がったのは3本だけだった。
一本はCROM7で、これは黒皮付きで3.4mmあったものを、鉄工所をやってる従兄弟に頼んで平面研削して1.8mm厚にしたものだった。
150ミリメートルの包丁を作ろうとしたのだが、ヒルトの部分でくの字に曲がり、おそらく機械で削っても修正は出来なかっただろう。
後になって聞いたら、平面研削を両面均等にかけないで、片面だけ多く研削して厚さを調整したとの事だった。
もう2本は何年か前に関の刃物祭で買ってきたスーパーゴールドⅡだった。これについては以前書いた通りである。
熱処理で変形する理由は主に
①マルテンサイト変態にともなう体積膨張。
②焼き入れの温度上昇時と冷却時の内部と外部での温度差による体積変化でおこる変形。
③加工によって生じた残留応力の開放による変形。
④素材の成分及び炭化物の偏析による変形。
の4つが考えられる。
①は刀の反りが付く理由と同じで、ステンレスの全鋼の場合は影響ないだろう。
②についてもナイフの様な10mmもないものでは、熱処理屋さんの話では影響ないという。金型の様な体積の大きなものについての話だろう。
③が一番影響あるだろう。鋼材は圧延加工しているので、内部に残留応力があっても不思議ではない。
④については、これによる変形はごく小さいと思われる。精密部品では問題になるかもしれないが、ナイフ(とくにシースナイフ)ではほとんど問題ないと思われる。ちなみに溶製鋼より粉末鋼の方が成分及び炭化物とも均一であるので、より変形しにくいといえる。
残留応力だが、これは大抵の鋼材に大なり小なりある様だ。
テーパータングに削る時に自分は一面づつ削っていくのだが、片面を削り終えると削った面の反対側に反る事がよくある。もう片面を削ると反りがなくなって元に戻るのだ。ATS34とCRMO7でよく見られた。
ZDP189の時は削った面の側に反ってきて、やはり反対側を削ると元に戻った。ATS34やCRMO7の多くは表面付近に縮もうとする応力があり、ZDP189では逆に伸びようとする応力があった様だ。
日立の鋼材の多くは残留応力があっても、両面でつり合っているので熱処理で曲がる事はほとんどない様だ。片刃のナイフが曲がりやすいというのも、このためかもしれない。
鋼材によっては当然両面で残留応力がつり合ってないものもあるのだろう。曲がった包丁は平面研磨を均等にかけなかったから、残留応力の偏りになったものと思われる。鋼材を切ってみたらどんどん曲がっていったなんてのもあった。
残留応力ってなんだ?っていえば、簡単にいってしまえば加工硬化と同じ事の様だ。
鋼材の圧延工程では当然加工硬化する。適切な熱処理を施して圧延加工しているものと思われるが、完全ではないのだろう。
幅の狭いフラットバー形状と、幅広のクロスロールによる板材とでは、残留応力の程度もかわるのかもしれない。
どうしたら残留応力を開放できるか・・・色々考えたが、一番簡単な方法は焼鈍すのがいいだろう。
加工硬化は転位というもの(概念?)が金属組織内に蓄積する事で起こるという。
転位ってエネルギーを持った状態(加工に要したエネルギーの一部)であるので、きっかけを与えれば消えようとする。
厳密にいえば違うかもしれないが、転位ってのは金属結晶内の微細な乱れと考えておけばいいだろう。
焼鈍しは熱エネルギーを加える事で、金属結晶内の乱れを解消して、より安定な状態にするものと考えればいいと思う。
鋼材を加熱して大丈夫なのか?と思われるかもしれないが、ステンレス鋼の焼き入れ温度が千数十℃と高い事と、保持時間が数十分必要な事、そして冷却が遅い空冷でよい事が理解できてれば、問題ない事が分かるはずだ。
ステンレス鋼の場合は約700℃程度までなら、長時間加熱しないかぎり結晶粒粗大化や相変化といった組織変化は起こらないそうだ。
焼鈍しの温度はどのぐらいまで上げればいいのだろうか?応力除去焼鈍しで調べてみると、概ね600℃付近でいい様だ。暗くした中でほんのり赤くなる程度に加熱すればいいだろう。
保持時間はある程度取った方がよさそうだが、数十分も保持するのは難しい。そもそも完全に応力をなくさなくてもいい訳で、焼入れの際に問題ないレベルまで応力を抜いておけばいい。
温度と保持時間ともそれほど神経質になる必要はないと思われる。ナイフの様な薄物ならば尚更だ。
今まで2本焼鈍しを行ってから作った。どちらも実際使ってみたが、製品としての問題点は何もない。
2本のうち1本は焼きなまさずに作っていたら、熱処理で確実に曲がっていただろうと思われるものだったが、効果があったのか焼き曲がらずに上がってきた。
焼きなます事で若干加工性がよくなった様にも思う。加工硬化が低減しているならば考えられる事だ。
稀にだがATS34でやたらと加工性がよく感じる物がある。自分は鉄工ヤスリで削るので、加工性の違いはよく分かる。
製造ロットによるバラつきでその様なものがあるらしいが、これも残留応力(加工硬化?)が関わっているのかもしれない。
現象が起こるには何か原因が必ずある。
何も考えずそんなもんだと思ってしまえばそれまでだ・・・
しかし鉄・・・というか金属全般にいえるかもしれないが、その性質はまるで生き物の様に思えてくる。知れば知るほど面白い。
まだ知りたい事は色々ある。当分楽しめそうだw
