大分前だがステンレス鋼になぜ共晶炭化物ができるのか書いた。
この時Cr量が増えるとγ(オーステナイト)単相領域が狭くなると説明した。
どんな具合かっていうと、図の様になる。
0%Crは普通の炭素鋼だが、γ相が最大で固溶できるC量は約2%程度だが、Cr量が増えるにしたがってγ単相領域は狭くなって、13%Crでは0.8%程度まで少なくなる。
Cr量が増すとC含有量が多くても硬さが高くならないのもここにある。
硬さはC/Crに、耐食性はCr/Cに概ね比例する。C量が多ければ硬くなって、Cr量が多ければ耐食性がよくなるわけではない。
日立安来の銀紙シリーズで見てみると分かりやすい。
硬さは銀1と銀5では大差なさそうだが、おそらく銀3が一番硬さが高くなりそうだ。
耐食性は銀3<銀1<銀5の順になると思われる。
他に含有する元素でもかわってくるが、組成が分かれば大まかな性質が分かってくる。
刃物用のステンレス鋼は大まかに分けると440の系統と420の系統と、若干耐食性を犠牲にして硬さを高くするための、14%Cr1%Cの系統の三種類が基本になっている。
銀紙のシリーズはこれに対応して作られたものなんだと思う。銀1が440の系統で銀3は14Cr1Cの系統、銀5が420の系統になる。
歴史的に見ると現代の420に相当する鋼種は、100年ほど前にシェフィールドのブレアリーが開発したそうだ。
共晶炭化物のない420相当だった事が興味深い。色々試した組成の中から選んだのだと思うが、おそらくブレアリーは刃物に適した金属組織はどうあるべきかという事を熟知していたからじゃないだろうか。
440の系統はブレアリーの特許を回避するためにアメリカで作られたと聞く。
共晶炭化物がゴロゴロ入ってるが、錆びにくく炭化物自体もCrによるものが主になるので、ザラっと研ぎやすくてアメリカ人的な使い方にはよかったのかもしれない。
鉄工ヤスリでナイフを作る。必要なのは、手間と時間と根気と努力・・・ 自作ナイフなんて物好きのやる事だなぁ・・・
2017年10月25日水曜日
実際とはズレがある
図は前にも書いた事があったと思うが、いわゆる鉄の状態図ってやつ。
純鉄に含有炭素量を変えて、温度によって組織変化がどうなってるのかを表している。
詳しい原理を必ずしも知る必要はないが、見方を知っておくと非常に便利だ。言ってみりゃ地図みたいなもの。
但し状態図は平衡状態という、温度変化が非常にゆっくりな条件で示されている。
炭素量0.8%以上の過共析鋼の場合焼入れ温度はA1線の少し上で、Acm線を越えない範囲で焼き入れすべきだ。
しかしこれをそのまま例えば日立の白紙の焼入れに当てはめると、白紙の焼入れ条件は微妙に高すぎる事になってしまう。(保持時間がちょっと長いが参考になる資料があった http://www.iri.pref.niigata.jp/26new05.html 750℃だとオーステナイトになりきれずフェライトが残ってる。A1線は750℃よりさらに上にあるって事になる)
なんでかって言ったら、先ず白紙の様な実際の炭素鋼はSiやMnといった元素を含んでいる事とがあげられる。含有元素にCrなどが入るとさらに温度が高い方にズレる。
それと実際の炉での加熱は平衡状態とはかけ離れるので、状態図とはズレができてしまう。平衡状態でない場合変態温度は、加熱の場合高くなり冷却では低くなる。
焼入れ温度をAcm線越えてオーステナイト単相の領域まで持って行ってしまうと、炭化物が全て基地に溶け込みピン止め効果が効かなくなって、基地(オーステナイト相)が粗大化してしまう。
過共析鋼の場合A1線よりちょっと上まで加熱すれば十分な炭素量(0.8%以上)が固溶するので、焼入れしても十分なな硬さは得られる。
それより温度を高めてAcmを超えないににしても、必要以上に炭素を固溶させて焼入れすると、今度は残留オーステナイトが増えて十分な硬さが得られなくなる。
実際と状態図にはズレがある。
これを言って理論と実際は違うから役に立たないんだとするのは大きな間違いだ。
実際とのズレの原因を知り理論を使えばいい。ズレがあっても傾向はほとんど理論通りになるはずだ。
放置プレイになってたjkgの鍛造教室で作ったナイフを削ってみた。
焼きが入ってるとベルトグラインダーでも削るのめんどくせえな・・・
研いでみた。
ダイヤの荒砥の時点でポロポロきた。
こりゃ硬すぎるし脆すぎだw
もうちっと削り込んでみるか・・・
純鉄に含有炭素量を変えて、温度によって組織変化がどうなってるのかを表している。
詳しい原理を必ずしも知る必要はないが、見方を知っておくと非常に便利だ。言ってみりゃ地図みたいなもの。
但し状態図は平衡状態という、温度変化が非常にゆっくりな条件で示されている。
炭素量0.8%以上の過共析鋼の場合焼入れ温度はA1線の少し上で、Acm線を越えない範囲で焼き入れすべきだ。
しかしこれをそのまま例えば日立の白紙の焼入れに当てはめると、白紙の焼入れ条件は微妙に高すぎる事になってしまう。(保持時間がちょっと長いが参考になる資料があった http://www.iri.pref.niigata.jp/26new05.html 750℃だとオーステナイトになりきれずフェライトが残ってる。A1線は750℃よりさらに上にあるって事になる)
なんでかって言ったら、先ず白紙の様な実際の炭素鋼はSiやMnといった元素を含んでいる事とがあげられる。含有元素にCrなどが入るとさらに温度が高い方にズレる。
それと実際の炉での加熱は平衡状態とはかけ離れるので、状態図とはズレができてしまう。平衡状態でない場合変態温度は、加熱の場合高くなり冷却では低くなる。
焼入れ温度をAcm線越えてオーステナイト単相の領域まで持って行ってしまうと、炭化物が全て基地に溶け込みピン止め効果が効かなくなって、基地(オーステナイト相)が粗大化してしまう。
過共析鋼の場合A1線よりちょっと上まで加熱すれば十分な炭素量(0.8%以上)が固溶するので、焼入れしても十分なな硬さは得られる。
それより温度を高めてAcmを超えないににしても、必要以上に炭素を固溶させて焼入れすると、今度は残留オーステナイトが増えて十分な硬さが得られなくなる。
実際と状態図にはズレがある。
これを言って理論と実際は違うから役に立たないんだとするのは大きな間違いだ。
実際とのズレの原因を知り理論を使えばいい。ズレがあっても傾向はほとんど理論通りになるはずだ。
放置プレイになってたjkgの鍛造教室で作ったナイフを削ってみた。
焼きが入ってるとベルトグラインダーでも削るのめんどくせえな・・・
研いでみた。
ダイヤの荒砥の時点でポロポロきた。
こりゃ硬すぎるし脆すぎだw
もうちっと削り込んでみるか・・・
2016年4月13日水曜日
熱処理と鋼の組織・・・その1
鋼の熱処理と組織の変化を、自分の覚え書きのつもりで書いてみる。
とりあえず単純に考えられる様に、炭素鋼を取り上げる。
ある炭素量(大体1.2%Cぐらい?)の炭素鋼をA→B→Cと、ゆっくり温度変化した時の組織を考える。
左図がAの状態の組織の模式図。
Γ相(オーステナイト相)は炭素を溶け込ます。
この領域にある程度の時間保持されていると、鉄と炭素の化合物のFe3C(セメンタイト)は分解されて、炭素は基地の鉄に固溶する。
Γ相は成長して結晶粒は大きくなる。
焼入れで過熱して組織肥大になるのは、こんな状態なんだな。
左図は少し温度が下がってBの状態。
Γ相に溶け込んでいた炭素が吐き出され、Γ相結晶の粒界に沿って網目の様にFe3Cが析出しはじめる。初析セメンタイトという。
さらに温度が下がって、Cの状態になったのが左図。
Γ相だった基地はa相(フェライト相)になる。
a相は炭素をごく少量しか固溶出来ないので、結晶中に層状にFe3Cが析出してくる。
このa相とFe3Cの層状の組織がパーライトと呼ばれる。
0.8%C以上だと常温ではパーライト組織と網目状の初析セメンタイトの混じりあった組織になってる。
高温まで加熱してゆっくり冷やした炭素鋼は、大体こんな状態になっている。
次はこれを鍛造した時を考えたいが、うまい説明ができるかな・・・
続く・・・のか?
とりあえず単純に考えられる様に、炭素鋼を取り上げる。
ある炭素量(大体1.2%Cぐらい?)の炭素鋼をA→B→Cと、ゆっくり温度変化した時の組織を考える。
左図がAの状態の組織の模式図。
Γ相(オーステナイト相)は炭素を溶け込ます。
この領域にある程度の時間保持されていると、鉄と炭素の化合物のFe3C(セメンタイト)は分解されて、炭素は基地の鉄に固溶する。
Γ相は成長して結晶粒は大きくなる。
焼入れで過熱して組織肥大になるのは、こんな状態なんだな。
左図は少し温度が下がってBの状態。
Γ相に溶け込んでいた炭素が吐き出され、Γ相結晶の粒界に沿って網目の様にFe3Cが析出しはじめる。初析セメンタイトという。
さらに温度が下がって、Cの状態になったのが左図。
Γ相だった基地はa相(フェライト相)になる。
a相は炭素をごく少量しか固溶出来ないので、結晶中に層状にFe3Cが析出してくる。
このa相とFe3Cの層状の組織がパーライトと呼ばれる。
0.8%C以上だと常温ではパーライト組織と網目状の初析セメンタイトの混じりあった組織になってる。
高温まで加熱してゆっくり冷やした炭素鋼は、大体こんな状態になっている。
次はこれを鍛造した時を考えたいが、うまい説明ができるかな・・・
続く・・・のか?
2016年4月12日火曜日
2007年6月8日金曜日
共晶炭化物
注目する点は、図中のオーステナイト(γ)単相になる部分が、13%Cr鋼だと炭素鋼に比較して非常に狭くなる。またオーステナイト単相の時に固溶できる最大の炭素量が、炭素鋼では約2%程度なのに対し、13%Cr鋼では約0.8%程度と少なくなる。
ちなみに、Crの量が多くなるほどγ単層の領域はさらに狭くなる。ステンレス鋼に共晶炭化物が発生する原因と、炭素量の割りに硬さが高くならないのはこの点に由来する。
ここで例えば、1%Cを含有する時に坩堝で溶かしてインゴットを作る時を考える。
13%Cr鋼だと液相(L)から固相になる時に、炭化物(M7C3)が晶出してしまいFeとM7C3の共晶組織ができる。この組織中の炭化物がいわゆる共晶炭化物と呼ばれるものになる。 (γに固溶できるCが0.8%なので、残り0.2%が共晶炭化物になる。)
炭素鋼の場合は固相になる時に途中でオーステナイト単層になるため、Cはすべてγに固溶するので13%Cr鋼の様に共晶炭化物が発生する事がない。(その後Fe3Cが析出する)
実際には偏析などがあり非平衡に事が起こるので、炭素鋼であっても晶出による炭化物が凝固後にも残る事があるが、拡散焼鈍しなどの熱処理で固溶できるので無くす事ができる。
高Cr高Cステンレス鋼の場合、より多く共晶炭化物が発生しする。その後の圧延により粉砕されるが、炭化物自体が硬い事と固溶する量も少ないので、圧延・熱処理しても最終的に数十μm程度の多角形の不揃いな形で不均一に分布する事になる。
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