鉄工ヤスリでナイフを作る。必要なのは、手間と時間と根気と努力・・・ 自作ナイフなんて物好きのやる事だなぁ・・・

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2018年2月9日金曜日

狭くなる

大分前だがステンレス鋼になぜ共晶炭化物ができるのか書いた。
この時Cr量が増えるとγ(オーステナイト)単相領域が狭くなると説明した。
どんな具合かっていうと、図の様になる。
0%Crは普通の炭素鋼だが、γ相が最大で固溶できるC量は約2%程度だが、Cr量が増えるにしたがってγ単相領域は狭くなって、13%Crでは0.8%程度まで少なくなる。
Cr量が増すとC含有量が多くても硬さが高くならないのもここにある。

硬さはC/Crに、耐食性はCr/Cに概ね比例する。C量が多ければ硬くなって、Cr量が多ければ耐食性がよくなるわけではない。

日立安来の銀紙シリーズで見てみると分かりやすい。
硬さは銀1と銀5では大差なさそうだが、おそらく銀3が一番硬さが高くなりそうだ。
耐食性は銀3<銀1<銀5の順になると思われる。
他に含有する元素でもかわってくるが、組成が分かれば大まかな性質が分かってくる。

刃物用のステンレス鋼は大まかに分けると440の系統と420の系統と、若干耐食性を犠牲にして硬さを高くするための、14%Cr1%Cの系統の三種類が基本になっている。
銀紙のシリーズはこれに対応して作られたものなんだと思う。銀1が440の系統で銀3は14Cr1Cの系統、銀5が420の系統になる。

歴史的に見ると現代の420に相当する鋼種は、100年ほど前にシェフィールドのブレアリーが開発したそうだ。
共晶炭化物のない420相当だった事が興味深い。色々試した組成の中から選んだのだと思うが、おそらくブレアリーは刃物に適した金属組織はどうあるべきかという事を熟知していたからじゃないだろうか。
440の系統はブレアリーの特許を回避するためにアメリカで作られたと聞く。
共晶炭化物がゴロゴロ入ってるが、錆びにくく炭化物自体もCrによるものが主になるので、ザラっと研ぎやすくてアメリカ人的な使い方にはよかったのかもしれない。




2017年4月23日日曜日

ちっとは楽するか・・・

 去年バーキングを貰った頃とほぼ同じ時期に、猟仲間から汎用のベルトグラインダーを貰っていた。
なんでも榊原さんがその昔使ってたものなんだとか。
猟仲間はナイフマガジンに榊原さんの追悼特集があった時に、「ハンターのK氏」として記事に登場した人だ。

ベルトが一般的な汎用ベルトグラインダーの物が使えず、専用じゃないといけないので、しばらく放っぽらかしてあった。
先日モノタロウで買い物があったので、ついででベルトを買ってみた。

 外形成形するのに使ってみた。
さすがに機械を使うと楽でいいなw
バーキングのベルトはちっと高価だから、外形切削や粗削りにこれ使ってみるのもいいかもしれないな。

細かいところはヤスリで仕上げ。
やっぱり基本は鉄工ヤスリだなw
今日も何種類かテストピースを切り出す。

先ずはBG42 横の画角が100μm。
ATS34に組成が似ていて、耐食性ベアリング用鋼らしい。
確か溶製鋼のはずだが、粉末鋼ぽくも見えるだな・・・なんだろか?
 積層のVG10
75倍で撮影。
確認してないが、横の画角でおそらく800μm程度だと思う。
皮金の縞は数えたら16層だった。


積層VG10の芯金部600倍、横100μm。
無垢材と比べると若干全体的に炭化物が細かいか・・・
しかし一次炭化物と思われるものは、それほど細かくなってる感じはないな。


 コアレス
75倍で撮影。
確かVG2とVG10の積層なんだっけか?
でかい炭化物が多い層がVG10で、少ない層がVG2なのだろう。


 コアレスの600倍。
でかい一次炭化物がゴロゴロしている部分がVG10層だと思われる。
エッチングの問題もあるのかもしれないが、層の境界は明確ではない。
VG10の無垢材と比べると一次炭化物以外はかなり細かくなっている様だ。積層VG10より細かそうだ。
コアレスだと圧延比が相当掛かっているので、VG10とはいえ別物に近いのかもしれない。しかし一次炭化物の微細化には限界があるんだな・・・


 青紙クラッド鋼の75倍撮影。
下の層が芯金の青紙鋼で、上の層が皮金になる。
皮金はステンレスだと聞いたが、鋼種はなんだろか・・・?

青紙芯金部の600倍撮影。
表面研磨とエッチングの問題で、ちょっと不明瞭であるが、大きな炭化物や介在物は見られず、組織はかなり細かそうだ。
鍛造せずとも削り出しでも十分使えそうだ。

2017年4月20日木曜日

D2って・・・

D2(日立のSLD)のテストピースを作った。
マトリックスアイダでD2の条件とATS34の条件で熱処理してもらった。

先ずは生材の組織を。
横の画角がちょうど100μm。
たまたま一次炭化物の濃い部分を撮影した事もあって、えらくでっかい炭化物が沢山写ってる。大きなものでは20μm近くありそうだ。
横方向が圧延方向になる。この大きさでは拡大しすぎて分かりにくいが、倍率を低くすると圧延方向に縞模様になっている。
Ⅾ2の条件で熱処理。
エッチングの具合や撮影箇所の都合で、生材と雰囲気が違うが、基本的に大きな違いはない。

ATS34の条件で熱処理。
ちょっとわかりにくいが基地の鉄にひび割れの様なものが見られる。
SLDをATS34の条件で焼入れすると過熱になる。
基地の結晶が成長して、粒界がひび割れの様に写っている。なんでこんな事をやってるかというと、これが見たかったから。
もうちょっとはっきり写真に撮りたかったが、表面の研磨とエッチングに工夫が必要だな・・・

D2は炭化物の主体がCrによるものなので、炭化物自体はMoやVなどのものから比べると硬さは低い。研ぎやすいとよく言われるが、そういった部分も影響しているんだと思う。
一次炭化物はでかくて量も多い。繊細な刃付けには向かないだろう。ザラっと研いで使うのがよさそうだ。
炭化物がジャリジャリしているので、基地の硬さと粘りのバランスが取れてないといけない。積極的に二次硬化する鋼種でないので、230℃近辺で焼き戻すのがいいのかもしれない。
マトリックスアイダのD2の熱処理はなかなかいいと聞くが、案外そんなところなのかもしれない。

2017年4月4日火曜日

補足

前回貼った組織写真の補足。

ATS34
生材と熱処理条件の違う写真を撮ったが、若干の様子が違う様に写ってる。表面研磨やエッチング、観察箇所の違いにより写りに変化があるが、基本的にどれも生材と様子は同じである。
適正範囲で熱処理されていれば、熱処理の前後では大きな違いは見られない様だ。
過熱があれば基地の鉄の結晶粒度が大きくなって網状の模様が出ると思われるが、どれも適正範囲であるのでその様なものは見られない。
大きな不規則な形状で白く写っているのが、共晶炭化物とか一次炭化物と呼ばれるもの。
基本的に加熱しても溶ける寸前まで変化はしない。通常の熱処理では変わる事がない。
ATS34の場合で大きい物で10数μmの物がゴロゴロ分布している。
若干濃淡があり分布にはバラつきがある。
炭化物は硬く脆い。耐摩耗性に寄与するが刃先に巨大な炭化物が出る場合、欠けたり脱落しやすいので、精緻な刃付けには向かなくなる。
一次炭化物は溶製の高合金鋼は宿命の様なもので、大なり小なり大抵のステンレス刃物鋼には存在する。

CRMO7
剃刀用鋼という事で結構組織は細かい。
一次炭化物がないという事がうたい文句になっているが、観察すると明らかに一次炭化物と思われる大きめの炭化物が所々に見られる。
概ね3μm前後ではあるが、ところによっては10μm近くあるものも見られる。
自分の持っていたCRMO7がたまたま大きな炭化物を含む物だった可能性もあるが、経験的に今までいくつか使ったCRMO7で磨いたブレード表面に、ATS34程ではないが僅かに縞模様が出る物があった。
炭化物の濃淡が圧延方向に模様として出ているのでは?と考えていたが、どうやら一次炭化物が僅かながら含まれているからだったのだろう。
剃刀材の場合は0.何㎜厚のリボン状に圧延しているので、ナイフ用の帯鋼材とでは圧延比も違うだろうから、組織の細かさに違いがあるのかもしれない。
CRMO7はMo含有量が炭素量の割に多いので、焼入れ温度は高目にする必要がある様だ。

ZDP189
熱処理条件の違う3枚を載せたが、若干様子が違う様に見えるが、これもエッチングや観察箇所の微妙な違いでそう見えるだけで、実際にはそれほど大きな変化はない。
目につくのは3μm前後の丸い炭化物で、それなりに一様に分布している。
粉末鋼のもとになるガスアトマイズによる粉末の粒度は概ね100~300μmらしい。
おそらくこの3μm前後の炭化物は溶製鋼の一次炭化物に相当するのだろう。
一次炭化物の様に簡単には固溶しないのであれば、ピン止め効果で基地の鉄の結晶成長を阻止できる。
HIP処理で固める事ができるのも、これが効果的に働いているからなのだろう。
ZDP189は炭素量に対してCr以外の合金含有量は少ない。
炭化物の多くはCrによるものなので、それほど硬いものでなく耐摩耗性がよすぎるわけでもない。
それとZDP189は基本的に焼き入れ温度は比較的低い。
マトリックスアイダのATS34の熱処理条件は焼入れ温度が高目で、ZDP189にはオーバーヒートになるのではと思っていたが、組織はとくに過熱による異常は見られない。
これも炭化物によるピン止め効果によるものなのだろう。おそらくHIP処理温度までは焼入れ温度を上げても問題ないと思われる。

SPGⅡ
これも生材と熱処理したもので若干様子が違う様に見えるが、本質的には違いはない。
ZDP189に比較して、見える炭化物は形状がやや不規則で、分布もややムラがある。
V含有量が2%程度あるので炭化物はかなり硬い。
SPGⅡはものにより磨きにくい事があるが、もしかしたら炭化物の形状や分布にバラつきがあるのかもしれない。
SPGⅡは実際使っていると刃先が明らかに劣化してきていると思われるのに、何故かまだよく切れると言う事がある。
多分刃先が劣化してきても、硬い炭化物が出てきて切れ味に寄与しているんだと思う。
単純に比較はできないがSPGⅡはATS34とS30Vの中間的な位置付けになるんじゃないかと感じてる。

S30V
使った感じでは炭化物がかなり大きいんじゃないかと思っていたが、実際はそれほどではなかった様だ。
V含有量が4%にもなるので、炭化物は非常に硬いものが大量に分布しているのだろう。
基地の鉄自体はそれ程硬くはないが、硬い炭化物が大量にあるため切れ味はこれによるもので、ちょっと癖がある。SPGⅡをかなり極端にした印象だ。

カウリY
思ったより炭化物が大きめだ。
形状は比較的揃っていて、分布も比較的均一の様だ。
カウリYで作った感じは、磨きやすく変に癖がなく扱いやすい印象だった。
実際使った感じは、研ぎやすくそこそこ長切れして使いやすい。
Vは1%程度の含有なので、硬い炭化物の量は抑えられているからなのかもしれない。
ATS34、SPGⅡ、S30Vと比較するなら、ATS34に近い感じだ。
V量が抑えられているので熱処理で硬さは出やすい。極低温の焼き戻しだとHRc65程度出て、二次硬化する高温焼き戻しなら62程度になる様だ。
錆びるという程ではないが、水分が表面に付着したままだと、曇る様に極薄く腐食する事がある。何故かは分からない・・・
自分にとってはかなり理想に近い鋼材だ。しかしもう入手できないのが残念。

カウリX
組成が似ているはずのZDP189から比較すると、炭化物の形状が不規則だ。
ZDP189とは使った感触は結構違いがあるのかもしれない。
カウリYと同じメーカーの鋼材なのに、炭化物の形状や分布の状態が違うのが興味深い。

CV134
炭素量とVの含有量が多いので、硬い一次炭化物がジャリジャリしているんだろうとは思っていた。
研ぎ上げて滑らかな刃を付ける用途には向きそうにない。そもそも砥石を使って手で研ぐには大変そうだ。
用途によってはいいのかもしれないが、自分の好みではないな・・・


組長の娘さんに使ってもらってるHMS67の小ナイフ。
ワンコ用の鹿ジャーキー作るのに猟期中使ってた。
解体に使ってたわけじゃないのでそれほど刃は傷んでなかった。なかなか使い方も上手かったってのもあるみたいだ。

案外HMS67がナイフ用に手に入るステンレス鋼の中では、一番組織が細かいかもしれない。
より炭素鋼に近い組織のステンレス・・・そんなものがあればいいのだが・・・















2017年3月18日土曜日

撮ってみた


友人が一眼デジカメの他に顕微鏡に取り付けるアダプターを持ってきてくれた。
ありがたや~
しかしTリングがオリンパス用で、EOSはくっ付かない・・・












Tリング買ってこようと思ったが、とりあえずそのまま乗っけて使ってみた。

とりあえず使えるw
でも作業性悪いから、今度買ってこよう・・・










適当に何枚か写真撮ってみた。
対物は40倍で接眼は15倍。
ノギスで0.1㎜幅にジョウの隙を作って確認したら、画角の横幅がちょうど0.1mm(100μm)になるみたいだ。

先ずはCRMO7。
白い粒が炭化物。
多角形で結構大きいものが疎らに見える。
一次炭化物がないといわれるCRMO7だが、この多角形で疎らにある炭化物は一次炭化物に相当するものだと思う。画角の寸法から割り出すと2~3μm程度の様だ。
二次炭化物に相当する物は非常に細かくて、この倍率でははっきり写っていない。
CRMO7は磨いた表面に僅かに縞模様が出る事があったが、おそらく抑えきれない一次炭化物の成分によるものだったのだろう。
これはATS34。
ゴロゴロと白く写っているのが一次炭化物。
概ね4~15μmぐらいで、でかい物だと20μm近くあった。
ATS34は磨いた面に縞模様が出やすいが、それはこの圧延方向に引き伸ばされた炭化物の濃淡が見えるから。

粉末鋼のZDP189。
炭化物の粒がそろっていて、分布もそこそこ均一だ。
見える炭化物は2~3μm程度の様だ。
ZDP189の炭化物はほとんどがCrによるものなので、炭化物自体の硬さはMoやVによる炭化物より硬さは低い。
基地の鉄が硬いだけで炭化物の耐摩耗性はそれほど高くないので、研いだ感覚は意外と素直だ。



次がSPGⅡ。
思ったより粒の揃いや分布にバラつきがある。
大きい物で4μmぐらいか。形状が結構歪だ。
おそらく粉末鋼でこの倍率で見えている炭化物は、ほとんどが溶製鋼における一次炭化物に相当するのだと思う。
大きめの炭化物はMoやVによるものなので耐摩耗性に寄与している。
そしてS30V。結構SPGⅡに似ている。
S30Vは炭化物がでかいんじゃないかと思っていたが、SPGⅡとそれほど変わらない。
しかし炭化物の形状がいびつで、分布もそれほど均一ではない様だ。
Vによる非常に硬い炭化物で、耐摩耗性はとても良い。そのためちっと癖があって研ぎにくい・・・






これはカウリX。サンプルで買った熱処理済みブレード。
随分炭化物の形状がいびつだ。ZDP189と比較すると面白い。
ZDP189と比較的成分は似ているそうだが、組織がこれだけ違うと使用感は結構違ってくるのかもしれない。






最後はCV134。上記のものは熱処理済みのテストピースだったが、これだけは熱処理前の生材。
組成からして一次炭化物がジャリジャリしているのだろうと思っていたが、もうこれは絶望的だ・・・

以上は適当に撮った写真だったが、何となく色々分かってきた。
ちなみに熱処理前後での見え方の変化だが、この倍率とエッチングの方法だと変化はなかった。
この倍率で見える炭化物は、適正に熱処理されているなら変化はない様だ。
エッチングだが、あまり深く腐食させると被写界深度が狭いので、ピントが手前と奥で会わなくなる。
炭化物はエッチングにより腐食しにくい様で、腐食しやすい基地の鉄が深く腐食する。
炭化物が浮いた状態になるので、基地の鉄とピントが合わない。
表面をきれいに研磨して浅くエッチングしないといけない様だな。
もうちょっと色々やってみると面白い事が分かりそうだw














2014年5月14日水曜日

実は面白そうだ・・・

今月は珍しくナイフマガジンを買った。(榊原さんの記事があったからだった・・・)
武生特殊鋼材の特集でコアレスの紹介があった。

自分はコアレスを誤解をしていた様だ。
2種類の鋼材が熱処理した後に硬さの違いが出て、鋸刃効果が出るのかと思っていたが、どうも違う様だ。
VG10とVG2の2種類の積層らしい。

昨年の鍛造部会の展示会で1枚買っていた。
買ったはいいが、VG10 とVG1の積層だと思っていたので、それだと組織からして自分の使い方には合わないとも考えていた。

VG10の問題点は一次炭化物(共晶炭化物)がある事だ。
イメージとしては細かい炭化物(二次炭化物)が分散してる中に、所々巨大な炭化物(一次炭化物)がゴロゴロ入ってる感じ。
VG2はCとCrの含有量からして、一次炭化物が少ない(もしくはほとんどない?)鋼材の様だ。

いくつか知りたい事があって武生に電話して聞いてみた。
買ったコアレスは約3mm厚だが、層数は70層なんだそうな。実際は工程の途中で磨くので、若干層数は減っているらしい。
3mmで70層だとしても、1層あたり40μm程度か。積層する元の鋼材は無論ペラペラに薄い物を貼り合わす訳ではないので、相当の圧延比になりそうだ。実際その事を聞いたら、かなり元の大きさは大きい物を圧延しているらしい。
このぐらいの圧延を掛けるとVG10の一次炭化物も粉砕されて、かなり細かくなるらしい。詳しい粒度が聞けなかったが、二次炭化物と遜色ない程度の大きさにはなっているとの事だ。

VG10とVG2の積層にしたのは、単に模様出しに適していたかららしい。
詳しくは聞かなかったが、ひょっとしたら低炭素含有の鋼材との積層がいいのかもしれない。
圧延の工程で高炭素の側から低炭素の側へ炭素は拡散が起こる。H工業のカタヤキさんに聞いたが、積層鋼は焼入れの時に芯金の炭素が皮金に拡散して、硬さが出なくなる事があるそうだ。
VG10の一次炭化物は余分な炭素量のためにあるともいえるので、拡散は一次炭化物の細粒化に、VG2の層は拡散してきた炭素により、熱処理時に硬さを得るのに役立つと思われる。
おそらく積層したVG10とVG2の層では、さほどの硬さの違いはないのではなかろうか。
若干耐磨耗性の違いはあるかもしれないが、思ったほど鋸刃効果は出ないと思われる。
それよりも炭化物と組織の微細化が最大の利点ではないだろうか。

買ったはいいが大して興味を持てないでいたのだが、よくよく考えると面白そうな鋼材だ。
溶製鋼の一次炭化物が何処まで細かく出来るかに興味があった。
単に巨大なインゴットを鍛錬整形するよりは有効な手段かもしれない。ちょうど折り返し鍛錬とやってる事は同じだ。
実際いいのかどうかは使ってみないと分からない。
3incぐらいのセミスキナーでも作って使ってみるか・・・


2014年3月25日火曜日

ステンレス鋼の熱処理

ついでだから、またくだらない事でも書いておこう。

炭素鋼の焼き入れは概ね800℃前後の温度で、保持時間はせいぜい数十秒ってところか。
冷却は水か油を使った急冷でなければいけない。
それに対してステンレス鋼は、焼き入れ温度が千数十℃で保持時間は10~20分程度必要。冷却は気体を噴きつける空冷でよいという。

何故そんなに違うかっていうと、簡単にいってしまえば合金元素が原因だ。添加されてる合金元素の影響で、炭素原子が移動(固溶拡散)しにくくなっている。

ステンレス鋼はCrが十数%添加されている。焼鈍し状態では添加されてるCrのほとんどは炭素と結びつき炭化物となっている。Cr以外にもMoやV、Wといった炭化物傾向の高い元素も同様だ。

焼き入れでは地の鉄に炭素原子を溶け込まさないといけない。そのためには炭化物を分解して、炭素をオーステナイトに変態した地の鉄(マトリックス)に溶け込ますのだが、炭化物傾向の高い元素と化合した炭化物(特殊炭化物)は分解しにくいために、より大きなエネルギー(熱)が必要になる。
また合金元素も地の鉄に溶け込むのだが、これにより地の鉄の中でも炭素の移動は妨げられ、鉄の中の移動には時間がかかる。
ステンレス鋼の焼き入れ温度が高い事と、保持時間が長い事はこれによる。
それと合金元素のCrが地の鉄に溶け込んで、ステンレス鋼ははじめて「ステンレス」になる。焼鈍し状態ではステンレスではないのだ。

冷却が空冷でよいのも地に溶けた合金元素の働きで、炭素原子の動きが束縛されているからだ。
炭素原子は固体の鉄の中をエネルギーを加える事で動き回れる性質がある。
添加された合金元素はその動きを阻害する。
焼き戻しの場合も、炭素鋼なら保持時間はせいぜい数十分だが、ステンレス鋼は1~2時間掛ける必要がある。これも合金元素の影響で、炭素の移動にエネルギーと時間がかかるためだ。

焼き入れ温度が高いと地の鉄の結晶粒が粗大化しそうな気がするが、炭化物の粒が均一に分布していると杭が立って結晶同士がつながるのを防ぐそうだ。ピン止め効果とかピーニング効果というらしい。
炭素鋼においても焼き入れ前に焼きなまして、セメンタイトを球状化して粒を揃えておくのもそのためだという。
ステンレス鋼は炭化物が溶け込みにくいので、焼き入れ温度が高い訳だが、ピン止め効果によって地の鉄(オーステナイト相)の結晶粒粗大化もしにくい様だ。

ピン止め効果といえば、粉末鋼ってのは結構便利に出来てるのかもしれない。よく組織写真が出回っているが、これで見える組織中の数μmの炭化物ってのは、いわゆる一次炭化物の様だ。
一次炭化物(共晶炭化物)ってのは、焼き入れでは分解しないのでこの炭化物は地に溶けない。(溶け込むは二次炭化物の方)
均一に分布した溶けない炭化物はピン止め効果を発揮して、地の鉄の結晶粗大化を防止できる。
この性質を利用すれば、粉末鋼ってのは意外と鍛造しやすいのかもしれない。
もちろん酸化防止や割れずに伸びやすい温度に調整する技術が必要だが、一般的な溶製鋼材から比べるとやりやすいのではないかと思ってる。

粉末鋼ってのはなんで炭化物が沢山ジャリジャリ入ってるんだと思っていたが、単に耐磨耗性を持たせるだけでなく、この方がHIP処理後の圧延加工がしやすく、作りやすいって利点があるのかもしれないな。
もっとも粉末鋼を追加の鍛造しても、組織変化や改善はあまり期待できないだろう。あくまで形状成形や多層鋼の模様付けになるのではないだろうか。(そういや前にも同じ様な事書いてたな・・・)



 星山さんちに用事があって行って来た。
業務連絡頼まれた。
金井さん見てるかな?最近ブログ更新してないけど大丈夫か?
鈴木寛さんのかな。バットキャップ彫ってる最中だった。いつもと地の処理を変えてるんだとか。
もうちっとで出来るみたいよ~

ちっと暖かくなってきたな・・・と思ってたら、花粉症が来たw
もうたまらん・・・

2011年12月28日水曜日

拾い物

ぐぐっていたら鋼材の組織写真を見つけた。
著作権の問題もあるので、ここに貼るのはどうかと思ったが、海外のあちこちのサイトに同じ画像が貼られているので、まあ大目に見てもらおう。

左上から13C26、440C 、CPM154、S30V、右上から19C27、ATS34、D2、VG10となってる。
みんなそれぞれ違う様子が面白い。
鋼はコンクリートに似たもので、セメントが鉄(と固溶合金元素)の生地に相当し、砂利や砂が炭化物(鉄や合金元素と炭素の化合物)に相当する。
写真の灰色の部分が生地で、白い部分が炭化物になる。

13C26は非常に炭化物が細かい。組成が0.68C・12.9Crということだから共晶由来のいわゆる一次炭化物がない鋼種なのだろう。CRMO7や銀紙5号、大同の1Kなどと同じ系統で、剃刀向けの鋼種の様だ。

19C27、ATS34、440C、D2、VG10は多角形で不規則な形状の巨大な炭化物がいわゆる一次炭化物。D2はともかくとしても、ATS34でも結構大きな物がはいってるんだな・・・
一次炭化物は耐摩耗性に役立つので一概に悪物とするわけにもいかないが、鋭利な刃先にこれが出るのは問題がある。剃刀の様な用途には向かない。
一次炭化物は溶製の高合金鋼では宿命みたいなものだ。炭化物自体が硬く鍛造比を大きくしても微細化には限界がある。また生地に固溶しにくいので大きなまま組織中に残ってしまう。

CMP154とS30Vは粉末鋼だが、炭化物の形状に違いがあって興味深い。
溶製鋼と違い巨大な不規則な炭化物はないが、剃刀用の溶製鋼と比べると意外に炭化物が大きい。
大抵の粉末鋼は合金元素が多いので、炭化物はかなり硬く耐摩耗性がいい・・・と言うか、よすぎる嫌いがある。炭化物でジャリジャリしてる感じか。

鋼材は組織の面から見ると、それぞれかなり違いがあって面白い。もっともざっと研いだだけの使い方では、その違いを体感するのは難しい。
硬さだけが重要じゃないんだよな・・・
誤解のない様に一応言っておくが、炭化物は細かい方がいいというわけでもなく、用途によってはでかい炭化物がジャリジャリしてるのも有効だ。要は用途によって鋼種に得手不得手があるわけで、また使う人の好みもあるからその選択は難しい。

12/29追記
VG10の写真もあったので画を差し替える。
余談だけど154CMの写真もあったが、見た目はATS34とよく似てた。

2011年9月4日日曜日

面白いものがあるもんだ・・・

ハンドル磨いた。
ブレイド研磨に使った耐水ペーパーで水研ぎする。
とりあえず320番掛けて終わり。また桐油を塗っておく。


ちょいと用事があって出かけたので、ついでで本屋に寄ってきた。
某刃物専門誌?を立ち読みしてきた。(買いませんでした、ごめんなさいw)
あるナイフメーカーの「フリクションフォージング」というのに興味をもった。

どうやらFSWの応用と思われる。FSWとは摩擦攪拌熔接の事で、フライスの様な(実際フライスを改良した物だったりする)機械で、ビットを接合部に押し当てて回転させる事で、発生する摩擦熱により熔接する方法。(詳しくはぐぐっておくれw)
FSWはアルミボディーの電車の生産に使われている。入熱が局所的なので熱変形が少ない事と、大気中でアルミを熔接できるので、近年よく使われている。

ナイフメーカーの詳しい製造工程は書かれていなかったが、刃先以外はHRCで40ちょっとと書かれていたので、おそらく外形切り出し(レーザーカット)後に熱処理を行ない、高温焼戻しで40ちょいの硬さとし(もしくは熱処理した鋼材を形抜き?)、刃先になる部分を「フリクションフォージング」し、これを切削加工しているのではなかろうか。
「フリクションフォージング」の加工自体は瞬間的に溶融状態から冷却凝固する事と攪拌の効果により、解説に書かれていた様に炭化物の微細化がおこるのかもしれない。

D2鋼を使用しているらしい。テストの結果D2にしたような事が書かれていたが、ATS34はこれには使えない様な気がする。ATS34はMoが多く入っているから、大気中での加工ができないのではなかろうか。無論粉末鋼も使う意味はないだろう。コスト的にもD2がよいのかもしれないな。

とても興味深い技術ではあるが、はたして実際はどうなのだろうか?
D2の巨大な共晶由来の一次炭化物は何処まで細かくなるのだろうか。
刃先の組織写真が見れたらなぁ・・・

2011年4月17日日曜日

つれづれに思いつきを・・・

今週もたいしてネタなし・・・
某掲示板で鋼材について話をしていて、ちょっと思いついた事を書いてみる。











ステンレス鋼などの高合金鋼で最大の問題は粗大な一次炭化物(共晶炭化物)が存在する事。
この事については大分前に書いた。(この時は共晶炭化物と書いたが、一次炭化物の方が一般的らしいので以降この名で書く事にする)

ステンレスの溶製鋼で一次炭化物をなくすには、13%CrとしてCは0.7%以下にする必要がある。この考えで作られているのがCRMO7などの剃刀鋼。
CrとCがこれ以上多くなると粗大な一次炭化物を含む事になる。

粉末鋼は一次炭化物を微細均一にする事が最大の目的だが、粉末にするのは急速冷却するためである。粉末一つひとつの内部の炭化物が細かくなり、その粉末を固めて作るから組織が細かくなる。
イメージとしては極小のインゴットを鍛接して固まりにしている様なもの。決して粉から作るから組織が細かいのではない。(ガスアトマイズ粉で平均の直径は100~300μm程度ある。)
粉末は熱間静水圧圧縮処理(HIP)によりインゴット化される。HIP処理だけでもそこそこ使える物ができるそうだが、このままでは靭性が十分でないので鍛錬圧延を行う。鍛造比を4以上掛けると靭性の改善は飽和するという。粉末表面には極薄い酸化皮膜があり、これが金属間の結合を阻害している。熱間加工により酸化皮膜が破壊されて靭性は改善される。(粉末鋼についてはこちらの記事も参照の事)

粉末鋼ってのはどこまで炭素鋼の様に炭化物を細かくできるのだろうか。
粉末ハイスと炭素鋼の組織写真を見比べると、どうも粉末鋼の炭化物は炭素鋼ほどには細かくない様に見える。
実際ZDP189と一次炭化物がないというCRMO7を研ぎ上げて比べると、ZDP189の方が炭化物が大きい様に感じる事がある。
粉末鋼だからといって、もの凄く細かくできている訳でなく、あくまでも巨大な一次炭化物がある溶製鋼から比べれば、細かくて均一であるという程度なのだと思う。

積層鋼においてランダムな模様を出すために鎚目を入れる事がある。
R2みたいに粉末鋼を加熱加工して大丈夫なのか?と思っていた。この様な物は実のところ今まで懐疑的に見ていた。
しかし実際使ってみた感じでは、組織の粗大化の様なものは感じられず全く問題がない。
なぜ大丈夫なのかと考えてみたが、粉末鋼に微細均一に分布する炭化物は、溶製鋼で言うところの一次炭化物に相当する物なのかもしれない。
一次炭化物は加熱しても簡単には固溶拡散しないので、ほとんど大きさが変化する事がない。生地(マトリックス)の結晶粒界にこれらが分布していれば、生地の結晶粗大化も防ぐ事ができるのかもしれない。
もっとも合金鋼における二次炭化物も固溶拡散の速度は炭素鋼と比較するとかなり遅いので、粉末鋼でなくとも溶製の高合金鋼は適切な温度範囲であれば、加熱しても簡単には炭化物や生地結晶の粗大化はおきないのかもしれない。
また積層鋼の場合、芯金が空気に晒される事がなく酸化や脱炭の影響がないのも、加熱加工しやすい理由の一つと思われる。(加工しやすいと言っても、鍛造可能温度と過熱領域の温度範囲は狭いと思われるので、温度を見極めるのは非常に難しく簡単ではないと思われるが・・・)

ステンレス鋼の様な高合金鋼は、炭素鋼と比較すると非常に高い温度で焼入れしている。
炭素鋼の感覚だと加熱により生地の結晶粒度が粗大化してしまいそうだが、これも炭化物の固溶拡散の速度が遅いからだった。(生地の結晶粒界に分布する炭化物は、γ結晶の成長を抑える)
高合金鋼の焼入れの冷却が空冷で硬化するのも固溶拡散の速度が遅いためだ。

「鉄は熱いうちに鍛えよ」というのがあるが、単に柔らかいうちに鍛えよという事ではなく、手際よく鍛えて加熱は必要最小限にしろという事なのかもしれない・・・(もとはイギリスのことわざらしいな)


思いついたまま書いたから、まとまりねえな・・・w

参考文献。
日本鉄鋼協会発行「工具鋼」。
工具鋼について専門に書かれた書籍って意外と少ない。この本は製鋼の歴史と、ハイスの開発の流れについて詳しく書かれている。
著者は日立金属の元技術者で、なかなか興味深い記載があり面白い。

2007年6月8日金曜日

共晶炭化物

貼った画は、いわゆる平衡状態図ってやつ。左が単純な炭素鋼で、右が13%Cr鋼。
注目する点は、図中のオーステナイト(γ)単相になる部分が、13%Cr鋼だと炭素鋼に比較して非常に狭くなる。またオーステナイト単相の時に固溶できる最大の炭素量が、炭素鋼では約2%程度なのに対し、13%Cr鋼では約0.8%程度と少なくなる。
ちなみに、Crの量が多くなるほどγ単層の領域はさらに狭くなる。ステンレス鋼に共晶炭化物が発生する原因と、炭素量の割りに硬さが高くならないのはこの点に由来する。
 
ここで例えば、1%Cを含有する時に坩堝で溶かしてインゴットを作る時を考える。
13%Cr鋼だと液相(L)から固相になる時に、炭化物(M7C3)が晶出してしまいFeとM7C3の共晶組織ができる。この組織中の炭化物がいわゆる共晶炭化物と呼ばれるものになる。 (γに固溶できるCが0.8%なので、残り0.2%が共晶炭化物になる。)
炭素鋼の場合は固相になる時に途中でオーステナイト単層になるため、Cはすべてγに固溶するので13%Cr鋼の様に共晶炭化物が発生する事がない。(その後Fe3Cが析出する)
実際には偏析などがあり非平衡に事が起こるので、炭素鋼であっても晶出による炭化物が凝固後にも残る事があるが、拡散焼鈍しなどの熱処理で固溶できるので無くす事ができる。
高Cr高Cステンレス鋼の場合、より多く共晶炭化物が発生しする。その後の圧延により粉砕されるが、炭化物自体が硬い事と固溶する量も少ないので、圧延・熱処理しても最終的に数十μm程度の多角形の不揃いな形で不均一に分布する事になる。

2007年6月1日金曜日

鋼材について 5

前回までに 440CやD2は組織が荒く、CRMO7などは細かいと書いた。
では、ATS34はどうかと言うと、 440CやD2よりは細かいがCRMO7よりは荒いと言える。顕微鏡組織を見た訳でないが、髭を剃った感じでもそう思う。(少しざらざら当たる)
ステンレス鋼における組織の細かさと硬さ、及び耐錆には互いに相反するところがある。
CrとCの量が少ない方が組織は細かくしやすく、Cが多くCrが少ない方が硬さが高くでき、Crが多くCが少ない程耐錆よくなる。
ATS34はこのバランスが非常に良い鋼材と言える。共晶炭化物は存在するが、ある程度小さく抑えている様だ。絶妙の合金設計なのだろう。 (バランスが良い故に特長がないとも言えるが・・・)
おいらは、多少乱暴に扱う用途(アウトドアでの汎用など)にはATS34を。滑らかな切味と耐錆が欲しいときはCRMO7を使うようにしている。

2007年5月30日水曜日

鋼材について 4

高合金・高炭素の溶製鋼では、共晶炭化物の発生は宿命的なものであるが、添加合金元素と炭素の含有量を工夫する事で、発生を抑えた鋼種もある。
ステンレス鋼ではCrが13%のとき、Cがおよそ0.7%以下になると共晶炭化物を無くす事ができる。SUS420J2や銀紙5号、CRMO7などがそうである。これらは硬さはやや低めとなるが、組織が細かいため研ぎ上げると滑らかな刃が付く。
CRMO7は世界的な剃刀メーカーであるウィルキンソン向けに、日立金属が開発した剃刀用鋼材だと聞く。これをフラットバー形状にして、ナイフ用鋼材として出荷してるらしい。(剃刀用は0.何mmかのリボン状)
フラットバー形状だと鍛錬整形比の違いがあって、剃刀の時より若干組織が荒くなっているかもしれないが、CRMO7で作ったナイフを研ぎ上げて髭を剃ってみると、とても滑らかで剃り心地がいい事が体感できる。Crによる複炭化物が、細かく均一に組織中に分布しているので対摩耗性がよく、複炭化物が硬すぎないので研ぎやすい。硬さがやや低いので、余り乱暴な用途には向かない(捲れ、潰れる)が包丁の様な用途には非常に良い鋼材だ。

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