鉄工ヤスリでナイフを作る。必要なのは、手間と時間と根気と努力・・・ 自作ナイフなんて物好きのやる事だなぁ・・・
2014年3月20日木曜日
おまじない・・・
外形切れたのでヤスリで整形。
この手のモデルだとコバの直角はリカッソの下側とヒルトの付く部分が出ていればいいけど、加工のしやすさを考えると全体の直角が出てた方がいい。
ヤスリで削るだけだと今一精度出ないし面倒なので、ボール盤を利用する。
穴あける。
曲がりを確認。
とりあえずほとんど平みたいだ。
ボルト穴は微妙に上寄りにあけた。
ラブレスのモデルはファスナーボルトの位置はハンドルの中央でなくて、微妙に上寄りなんだそうだ。
ハンドル材が付くと目の錯覚で、ボルトが下目に付いてる様に見えるそうだ。面白い事に確かにそうなんだよな・・・
最近までそんな事も知らなくて、ショーで吉川さんに教えてもらったのだったw(吉川さん、ありがとです~)
切り出す時に反らなかったし、マトリックスアイダでも熱処理で曲がるトラブルは出てないという。
おそらく今マトリックスアイダで売ってるスーパーゴールドⅡは、熱処理で曲がる事はないと思われる。
だけど以前曲がった事があったので、おまじないだと思って焼鈍しておく。
冷却は空冷でもいいけど、今回は念のため灰の中で冷却する。
応力除去焼鈍しだし、ナイフの様な薄物ならば空冷で十分かもしれない。
自分の考えをまとめるつもりで書いておく。
興味のある人だけ読んでくだされ。
熱処理で曲がる事がたまにある。
多かれ少なかれ、熱処理での歪みは発生するものだ。テーパータングの平面度を見ていると分かりやすい。大体が無視できるか修正できる程度で収まる。
それでも今まで70本近く作ってきたが、決定的に曲がったのは3本だけだった。
一本はCROM7で、これは黒皮付きで3.4mmあったものを、鉄工所をやってる従兄弟に頼んで平面研削して1.8mm厚にしたものだった。
150ミリメートルの包丁を作ろうとしたのだが、ヒルトの部分でくの字に曲がり、おそらく機械で削っても修正は出来なかっただろう。
後になって聞いたら、平面研削を両面均等にかけないで、片面だけ多く研削して厚さを調整したとの事だった。
もう2本は何年か前に関の刃物祭で買ってきたスーパーゴールドⅡだった。これについては以前書いた通りである。
熱処理で変形する理由は主に
①マルテンサイト変態にともなう体積膨張。
②焼き入れの温度上昇時と冷却時の内部と外部での温度差による体積変化でおこる変形。
③加工によって生じた残留応力の開放による変形。
④素材の成分及び炭化物の偏析による変形。
の4つが考えられる。
①は刀の反りが付く理由と同じで、ステンレスの全鋼の場合は影響ないだろう。
②についてもナイフの様な10mmもないものでは、熱処理屋さんの話では影響ないという。金型の様な体積の大きなものについての話だろう。
③が一番影響あるだろう。鋼材は圧延加工しているので、内部に残留応力があっても不思議ではない。
④については、これによる変形はごく小さいと思われる。精密部品では問題になるかもしれないが、ナイフ(とくにシースナイフ)ではほとんど問題ないと思われる。ちなみに溶製鋼より粉末鋼の方が成分及び炭化物とも均一であるので、より変形しにくいといえる。
残留応力だが、これは大抵の鋼材に大なり小なりある様だ。
テーパータングに削る時に自分は一面づつ削っていくのだが、片面を削り終えると削った面の反対側に反る事がよくある。もう片面を削ると反りがなくなって元に戻るのだ。ATS34とCRMO7でよく見られた。
ZDP189の時は削った面の側に反ってきて、やはり反対側を削ると元に戻った。ATS34やCRMO7の多くは表面付近に縮もうとする応力があり、ZDP189では逆に伸びようとする応力があった様だ。
日立の鋼材の多くは残留応力があっても、両面でつり合っているので熱処理で曲がる事はほとんどない様だ。片刃のナイフが曲がりやすいというのも、このためかもしれない。
鋼材によっては当然両面で残留応力がつり合ってないものもあるのだろう。曲がった包丁は平面研磨を均等にかけなかったから、残留応力の偏りになったものと思われる。鋼材を切ってみたらどんどん曲がっていったなんてのもあった。
残留応力ってなんだ?っていえば、簡単にいってしまえば加工硬化と同じ事の様だ。
鋼材の圧延工程では当然加工硬化する。適切な熱処理を施して圧延加工しているものと思われるが、完全ではないのだろう。
幅の狭いフラットバー形状と、幅広のクロスロールによる板材とでは、残留応力の程度もかわるのかもしれない。
どうしたら残留応力を開放できるか・・・色々考えたが、一番簡単な方法は焼鈍すのがいいだろう。
加工硬化は転位というもの(概念?)が金属組織内に蓄積する事で起こるという。
転位ってエネルギーを持った状態(加工に要したエネルギーの一部)であるので、きっかけを与えれば消えようとする。
厳密にいえば違うかもしれないが、転位ってのは金属結晶内の微細な乱れと考えておけばいいだろう。
焼鈍しは熱エネルギーを加える事で、金属結晶内の乱れを解消して、より安定な状態にするものと考えればいいと思う。
鋼材を加熱して大丈夫なのか?と思われるかもしれないが、ステンレス鋼の焼き入れ温度が千数十℃と高い事と、保持時間が数十分必要な事、そして冷却が遅い空冷でよい事が理解できてれば、問題ない事が分かるはずだ。
ステンレス鋼の場合は約700℃程度までなら、長時間加熱しないかぎり結晶粒粗大化や相変化といった組織変化は起こらないそうだ。
焼鈍しの温度はどのぐらいまで上げればいいのだろうか?応力除去焼鈍しで調べてみると、概ね600℃付近でいい様だ。暗くした中でほんのり赤くなる程度に加熱すればいいだろう。
保持時間はある程度取った方がよさそうだが、数十分も保持するのは難しい。そもそも完全に応力をなくさなくてもいい訳で、焼入れの際に問題ないレベルまで応力を抜いておけばいい。
温度と保持時間ともそれほど神経質になる必要はないと思われる。ナイフの様な薄物ならば尚更だ。
今まで2本焼鈍しを行ってから作った。どちらも実際使ってみたが、製品としての問題点は何もない。
2本のうち1本は焼きなまさずに作っていたら、熱処理で確実に曲がっていただろうと思われるものだったが、効果があったのか焼き曲がらずに上がってきた。
焼きなます事で若干加工性がよくなった様にも思う。加工硬化が低減しているならば考えられる事だ。
稀にだがATS34でやたらと加工性がよく感じる物がある。自分は鉄工ヤスリで削るので、加工性の違いはよく分かる。
製造ロットによるバラつきでその様なものがあるらしいが、これも残留応力(加工硬化?)が関わっているのかもしれない。
現象が起こるには何か原因が必ずある。
何も考えずそんなもんだと思ってしまえばそれまでだ・・・
しかし鉄・・・というか金属全般にいえるかもしれないが、その性質はまるで生き物の様に思えてくる。知れば知るほど面白い。
まだ知りたい事は色々ある。当分楽しめそうだw
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7 件のコメント:
アウトラインの直角出し、ウマいやり方ですね!
石のビットは結構減りが早くないですか?
ボルトの位置は私もやや上寄りにします。
ハンドルの断面が卵型?の場合、上側の面積が広いので
尚更ボルトが下寄りに見えますものね。
素材のお話はとてもためになります!
HILTS
ガリガリ削るわけじゃないので、そんなに減りは早くないみたいです。
でも偏摩耗すると困るので、上下させながら万遍なく使う様にしてますw
さすがよく見てますねw目の錯覚って面白いものですね。
長文は読み流して、真に受けない様にしてください・・・あってるかどうかは分りませんw
フルテーテーパータングの大きな穴はバランサーだけでは無く体積の均一化と応力逃がしも有ってやってるけど効果が有るのか否か?6年地金学を学んだ青年が家に来るけど効果有りですが完璧は無いですとの意見だったね。そりゃー完璧は無かろうが其れに近づけたいのが真意です。vg10の三層鋼、皮金が420はよく曲がるけど410の皮金の方は曲がり辛い気がするね。焼鈍、一手間だけど遣らないよりはやった方がソリャー良いけどプロでもアマでもそれ以上の対処は鋼材屋さんと焼き入れ屋さんに頼るとこだし叩いて直す技術も有るけど刃槌だからキズになるしお灸を充てる事も遣ったけど治らなかったね。難しいと云う判断じゃ無くて如何こなすってことでやってますね。
タングに穴あけとくと、多少歪んで上がっても、ハンドル材で押さえ込めてしまうので、自分はそんな利点があるかなと思ってます。まあ自分の場合は切粉落しと切削面を減らすのが一番の目的ですがw
結局のところ鋼材メーカーの主なお客さんが、鍛冶屋さんなのか削り出しのメーカーなのかで違うのかもしれません。
鍛冶屋さんならば鍛造や熱処理は自前なので、鋼材の残留応力の有無はあまり関係ないのかと思います。
自分はプロでないので、手間や多少のコストはあまり気にしませんが、プロのメーカーさんにとっては、なかなかやっかいかもしれませんね。
420と410では焼鈍し状態での伸びや硬さが違うから、410の方が加工性がよく圧延による残留応力が少ないのかもしれないですね。
炭素量の違いからも、熱処理後の体積変化も微妙に違うのかも。
まあ何が本当の原因かは分かりませんが、色々考えてみるのも面白いものですw
そもそもその昔、刃物は鍛造して作る事が当然だった訳で、全鋼物は安物って親父なんかは言ってたね。古い話だけどステンレス鋼が輸入された頃は鍛冶屋さん達は脅威に思った人と、逆にそんな物って言う人が居たね。親父なんかはATSだって鍛造しようとしてたし複合材(クラッドメタル)が与に出た頃は相変わらず鍛冶屋さん達は鍛造してたし(歩留まりも考え)今でも其れが引き継がれていて付け鋼なのか刃紋荒らしの見せ掛け鍛造なのか素人さんは未だに理解できない方が多いね。
そんな話を時々する機会には鍛接と鍛造は別物として説明するけど地金の刃金の多種だから解り辛いかな。
鋼材の作り手は曲がらない様に製鋼して、我々刃物製作者は如何したら曲がり辛いか、直せるかを習得しないと駄目かな?!
鋼材メーカーには、削り出しのナイフメーカーがどの様に使ってるか、理解してもらわないといけないのかも。
「熱処理で曲がるのは当たり前です」って考え方は、鍛造メーカーにとっては常識課もしれませんが、削り出しのメーカーにとっては酷な話です。
自分の様なアマチュアが言っても、なかなか聞く耳を持ってくれないみたいですから、経験の豊富なプロメーカーの方からも言ってもらえればと思います。
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